2021.4.27
医療免責事項
この筋肉注射手技マニュアルは、当院において臨床研修医の教育目的で作成したものです。
実際の筋肉注射手技については、各医療機関での判断と責任によって実施してください。
また特定の薬剤については、薬剤添付文章の内容(肩峰の3横指下で注射するように記載されたもの 例:サーバリックス)と異なることにご留意ください。
著作権は当臨床研修センターに属しますが、上記の事項に同意いただいた上で各医療機関において自由にご利用ください。
(2021/3/4追記)リンク・参考URLを貼られる場合は、PDFファイルではなく当ページをお願い致します。
奈良県立医科大学
整形外科・臨床研修センター 仲西 康顕
日本プライマリ・ケア連合学会作成 筋注手技解説動画
『新型コロナワクチン より安全な新しい筋注の方法 ダイジェスト版』
日本プライマリ・ケア連合学会ワクチンチーム 製作・監修
当院のマニュアルを参考にしていただきました。
実際の手技についてとても分かりやすく解説されています。
Q & A
Q1: 筋肉注射で神経損傷ってあるのですか?
A1: はい。あります。特に避けてほしいのは、「橈骨神経損傷」です。これは不適切な肢位で穿刺することが大きな原因と考えられます。上肢の筋肉注射で、一番多く報告されているのが橈骨神経損傷で、避けるべき合併症です。
Q2: 「肩峰から3横指下」って習いました。間違いだったのでしょうか?
A2: 少なくとも20年以上前から、その場所に腋窩神経と後上腕回旋動脈が走行していることは国内の論文でも指摘されていました。なぜ教科書が変わらないのかは不明です。また、この問題に関してはテキストに添付されている図が解剖学的に明らかに間違っていることもあります。
Q3: この方法をお勧めする根拠はあるのですか?
A3: 後腋窩ひだの中にある大円筋の頭側を腋窩神経が走行します。また上腕骨の比較的前方に停止する大円筋の尾側で、橈骨神経が前から後ろに向かいます。ですので、大円筋の尾側にあたる腋窩ひだの高さは、橈骨神経と腋窩神経の損傷を避けやすいと考えています。詳細は上記論文の図9をご覧ください。
Q4: 結局のところ、肩峰から何横指あるいは何センチ、と覚えたらいいのですか?
A4: 人によって体格や自分の指の太さが異なりますので、決まった距離はありません。まず三角筋自体の輪郭をしっかりで触知することが重要です。その上で脇に指先を入れ、腋窩ひだの高さを把握することが大切だと思います。
Q5: 2横指とか1横指ではダメですか?
A5: 神経損傷は避けられるかもしれません。しかし、三角筋下滑液包内に注入するリスクが増えます。特にワクチンのこの場所への注入による問題(SIRVA)が欧米で問題となっています。
Q6: 高度の痩せ型体型の被接種者に対しても、奈良医大のマニュアルに示された部位で接種するべきでしょうか?
A6: 当マニュアルで推奨する部分では、体型に関わらず神経への誤った穿刺を避けやすいと考えます。Q3と同様の理由になりますが、体型が大きく変化しても筋肉の骨への停止部や、神経の走行位置と筋肉との前後関係が変化するわけではないからです。
Q7: もともと肩の痛みがあったり、その痛みに対して治療中である被接種者に対して、症状のあるほうの肩に接種することは問題がありますか?
A7: 接種後に三角筋の一時的な痛みが生じることを考えると、基本的に非利き手や症状のない肩への接種が良いのではと考えていますが、現在の肩の症状をワクチン接種が直接悪化させるかどうかについては分かりません。しかし、もし被接種者が自らの健康状態に関してどちらかの肩への接種を避けることを希望する場合は、もちろんその意見を尊重して判断することを推奨します。
Q8: 厚労省が示した動画や、日本プライマリ・ケア連合学会の動画でも「肩峰下三横指」の部位の筋肉注射が否定されているわけではなさそうですが、どのように考えたらいいのでしょうか?
A8: たとえば大規模な前向き研究等による、筋肉注射の手技と合併症の頻度についての高いエビデンスは現時点で存在しません。本来、新しい手技については様々な反論や検証の中で慎重に安全性が高められていくのが、健全な医療技術の発展の形であると考えています。一方で、因果関係が既知の問題として示されている合併症に対しては、医療者にはそれを避けるための対応が必要です。今回のマニュアルや論文については、従来指摘されている問題点を整形外科医の視点で指摘しました。ではどのようにするのか?という現実的な問いかけに対して、「現時点ではこれが一番安全ではないか」ということを提示しています。筋肉注射の手技や安全性について「これが正解」と主張するものではなく、今後さらに議論が深まることを願っています。こちらに頂いた疑問に関しては、可能な限り対応しております。
マニュアル・論文に関する著作権について
マニュアルについて
- 上記の医療免責事項に示す通り本マニュアルの著作権は当臨床研修センターに属しますが、免責事項に同意いただいた上で各医療機関内やワクチン接種会場内、あるいは医療関係者間の情報交換の資料などとして自由にご利用ください。
- SNS等における個人の書き込みとして内容の掲載を容認していますが、PDFへの直接リンクはアップデートや医療免責事項の問題から避けていただき、当ページのURLを記載していただけるとありがたいです。
- 医療機関などの団体で、不特定多数からインターネット上でアクセスできる形でPDFそのものを二次配布することはご遠慮いただいております。
- 特に図表の一部などを使用する場合、「著作物の同一性保持権」にご留意ください。すなわち、PDFの一部あるいは全部をJPEG等の画像としてキャプチャーしそれを改変なく貼り付け引用元を記載して使用することは可能ですが、PDFの編集機能等を用いて内容あるいはレイアウトを変更して使用することは許可しておりません。
- 出版物等への掲載、ネットに公開するパンフレットへの図表の一部使用などの可否に関するお問い合わせは、まず当臨床研修センターへご連絡ください。①医療に関連する機関であり、②上記同一性保持権にご留意頂き、③当センターの許諾ありと記載される場合には、ほぼお断りすることはありません。
論文について
- 上記論文の著作権は中部日本整形外科災害外科学会に帰属します。J-STAGEでの一般公開は、学会のご厚意によるものです。
更新履歴
2021年4月27日
- 中部日本整形外科災害外科学会雑誌に掲載された「ワクチンの筋肉注射手技の国内における問題点:末梢神経損傷およびSIRVAについて」についてリンクを記載しました。上記論文は筋肉注射のマニュアルと同時に作成し3月に査読を経て受理されました。これまで問い合わせに応じて医療関係者に配布しておりましたが、今回、中部日本整形外科災害外科学会のご厚意により一般公開されました。
- 筋肉注射手技マニュアルv1.7を公開しました。
- 1枚目右下参考文献について「ワクチンの筋肉注射手技の国内における問題点:末梢神経損傷およびSIRVAについて」に変更しました。また、論文の掲載されたJ-STAGEのURLを示すQRコードを併記しました。
- 2枚目右下に当臨床研修センターのURLを示すQRコードを追記いたしました。
理由:注射部位について参考とさせて頂いた2017年の中島先生らの論文に敬意を示す意図でパンフレットに記載しておりましたが、それだけが当筋肉注射マニュアルの根拠であるかのように受け取られる原因ともなっておりました。マニュアルの根拠を出来るだけ分かりやすい部分に示すために変更しました。
- 日本プライマリ・ケア連合学会で3月に作成された動画へのリンクを記載されました。実際に筋肉注射の手技について動画として分かりやすく理解することができます。
- 様々な形で頂いた問い合わせの中から、Q&A6-8を追加しました。Q3については、論文の一般公開に対して記述を以下のとおり変更しました。「詳細は論文として公表予定です」→「詳細は上記論文『ワクチンの筋肉注射手技の〜』の図9をご覧ください」
- 「マニュアル・論文に関する著作権について」を追加しました。
2021年3月31日
3月29日 奈良医大臨床研修センターのホームページ全面更新に伴いURLが変わりました。
以前のURL:https://www.naramed-u.ac.jp/~resident/medical07_manual.htm
現在のURL:https://www.nmu-resident.jp/intramuscular.html
2021年3月4日v1.6公開
- 1枚目中央図の一部を変更しました。
更新前:男性約12cm,女性約10cm
更新後:約10cm前後になることが多いです
理由:体格により数値は変化しますので、数値自体が一人歩きすることを避けるため、我々の実測値も踏まえて変更しました。 - 1枚目下図をより解剖学的に正確な縮尺となるよう変更しました。